SDGs自社への落とし込み

企業が気を付けるべきSDGsウォッシュとは? 事例と具体的な回避方法を解説

2022/09/21

世界的な動きとして浸透しつつあるSDGs。認知が広まり、SDGsに対する企業の取り組み方にも世の中の関心が高まる今だからこそ、注意すべきことがあります。それがSDGsウォッシュです。

SDGsウォッシュとは、実態が伴っていないにもかかわらずSDGsに取り組んでいるように見せかける行為や、過剰な表現、誇張した情報発信によってSDGsとの関わり方に対して誤解を招くような行為、状態を指します。

ひとたびSDGsウォッシュが指摘されると、企業は社会的信用や顧客を失うという重大なリスクを負いかねません。ここでは、SDGsウォッシュの事例や、SDGsウォッシュを予防するために押さえておきたいポイントを紹介します。改めて自社のSDGsに対する取り組みを振り返るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

1.SDGsウォッシュとは?

SDGsウォッシュとは、企業のSDGsへの取り組みについて、表向きと実態に乖離があることを指します。このワードはもともと、悪事や犯罪行為、スキャンダルを隠蔽したり、自分たち本意で都合の良い情報だけを流したりする行為を指す「ホワイトウォッシュ」に由来します。

ここでは、SDGsウォッシュの意味や重大性、さらにはそれに伴うリスクについてまとめます。

SDGsウォッシュの意味

SDGsウォッシュと類似した言葉に、グリーンウォッシュという言葉があります。これは、環境に配慮した企業やエコな活動を表すグリーンに、“ごまかし”という意味を持つホワイトウォッシュを組み合わせた造語です。

環境に対して配慮しながら企業活動を行っていること、環境を守るための活動を積極的に行っていることなどをアピールしておきながら、実際には地球環境に大きな負荷をかけるようなことを行っている企業を指す言葉として1980年代に叫ばれるようになりました。

グリーンウォッシュから派生し、SDGsウォッシュという言葉がヨーロッパを中心に使われるようになりました。SDGsウォッシュとは、SDGsについて実態がないのにSDGsに取り組んでいるように見せかける、SDGsへの取り組みについて実態以上に誇張して見せかける、不都合な事実を見せずに良い情報だけを伝えるといったことを批判する言葉です。

グリーンウォッシュやSDGsウォッシュは、消費者やステークホルダーに誤解を与えることにつながりかねませんし、消費者やステークホルダーに対する裏切り行為と捉えられるリスクを含んでいるので注意が必要です。

SDGsウォッシュによる企業のリスク

SDGsウォッシュと見なされる行為は、消費者に向けて、単に企業イメージをアップさせる過剰な発信というだけにとどまらず、虚偽による企業価値の向上や利益の拡大といったことにつながり、ステークホルダーからの非難や指摘を招くことも。

そのためSDGsウォッシュがもたらす影響は、多岐に及びます。例えば消費者と企業の信頼関係が損なわれ、その企業による商品やサービスへの愛着や信頼感も失いかねません

さらに、広告で表現していることと実際の企業行動に隔たりがあるということは、企業イメージをダウンさせる可能性もあります。ステークホルダーからの信用度は落ち、ESGの投融資先としての魅力を大きく損なうことにもつながるでしょう。SDGsウォッシュに対する声が拡散すれば、商品やサービスの不買行動につながることも考えられます。

一方で、SDGsウォッシュの定義を示す国際的なガイドラインはなく、法律によって定められるものではありません。国や地域、人々の意識によって判断基準が異なるという点も留意すべきポイントです。

だからこそ、実際には嘘やごまかしがなかったとしても、ソーシャルメディアなどを通して、SDGsウォッシュとして社会的風評が広がることもあり得るということも念頭に置いておく必要があります。

企業をSDGsウォッシュと評価するのは、あくまでも消費者や社会の厳しい目であり、企業は常にその評価の対象として晒されているのだということを意識するようにしましょう。

SDGsウォッシュが企業にもたらすダメージ

  • 消費者と企業の信頼関係を損なう
  • ESGの投融資先としての魅力を損なう
  • 商品やサービスの不買行動につながる

2.パターン別SDGsウォッシュ事例

せっかくSDGsに取り組んでいても、批判されて企業価値を下げてしまっては意味がありません。気づかないうちにSDGsウォッシュと指摘されるような状態に陥っていないか、SDGsウォッシュと見なされるリスクはないかと多角的に検証するためにも、過去の事例や回避法を知っておくことは有効な手段です。

ここでは、SDGsウォッシュと批判されるリスクが高いいくつかの代表的なパターンをピックアップ。それぞれのケースに該当する事例を取り上げます。

パターン①/取り組み内容が事実と矛盾している

日本を代表する複数の大手銀行が、脱炭素の重要性を謳いながら、石炭火力発電の新規建設に出資や融資を行い巨額を投じてきたとして、これらのメガバンクに批判の目が集まった事例があります。

地球温暖化対策が急がれる中、日本は海外諸国から脱石炭を迫られています。そんな中、石炭火力に巨額を投じてきた各社への風当たりが強くなり、石炭火力への融資撤退を求める声が上がり始めました。

こうした背景から、石炭火力の新規事業への融資停止や融資残高ゼロを目指す目標などが各行から相次いで発表されました。

パターン②/プラスの取り組みとは裏腹に、対局的な負の活動が横行

今では、環境やサステナブルに配慮した製品を率先して開発・製造する企業として知られる世界的な大手スポーツメーカー。しかし1990年代、製品を作る子供の写真を雑誌に掲載されたことを機に、児童労働問題としてバッシングを受けた経緯があります。

当時この企業では、14歳までの7,000人を超える子供を1日10時間前後にわたって安い賃金で働かせていたとする報告内容が公表され、世界的な不買運動にまでつながりました

その後、同社では積極的に労働条件の向上や労働環境の改善に取り組み、製品の面からもSDGsの取り組みを一層強化。業界のリーディングカンパニーとして、SDGsの推進に力を注いでいるものの、時を経た今もなお、過去の事例がSDGsウォッシュとして語り継がれてしまっているのです 。

パターン③/取り組みが不十分で、サプライチェーンまで行き届いていない

企業が大きくなればなるほど、そこに関連するサプライチェーンの輪も広がります。企業単体がいかに親身にSDGsに取り組んでいたとしても、関係性のあるサプライチェーンがその理念に反するような活動を行っていれば、社会の批判に晒されることになります。

例えば人権侵害に関する問題は判断が難しく、問題が表面化しにくい分野の1つです。

世界に名立たるコーヒーショップや大手コンビニエンスストアなどに食品を提供するサプライヤーが、技能実習生として来日した外国人に対して人権を侵害するような行動を繰り返したとして問題に。実習生たちを支援する団体により、不当な解雇や強制帰国を強いられた外国人らの苦悩が公表されました。

ガイドラインや法律といった確固たる基準に基づく判断が難しい問題については、個人のリテラシーや国、社会の状況によって、SDGsウォッシュに相当するかどうかの捉え方が大きく異なります。

この例でも、直接の雇用関係にはなかったものの、取引関係にあった某有名企業に対して「サプライチェーンの中で起きた人権侵害には取引先企業として責任を負うべきだ」との世論が高まりました

パターン④/事実以上に誇張した表現をしている

サステナブルやエコに対する消費者の意識が高まる中、企業や商品の取り組みに共感することが購買行動につながるというケースも増えています。その購買意欲を高めるために、企業は環境に配慮したパッケージであることやサステナブルな商品であることを訴求しようと努めています。

しかし一方で、その表記が偽りだったと知った時の消費者の落胆や憤りはひときわ大きくなります。

ある海外のコスメブランドが、紙の容器を使って環境にやさしいパッケージであることを打ち出していたにもかかわらず、プラスチックの容器の上から紙を巻いたものだったことが発覚。このパッケージ以外にも、同社では環境へ配慮した活動を行ってPRを行い、消費者の中にもエコな企業としてのイメージが広まりつつあっただけに、裏切られたという反発が大きな波紋を呼びました。

「ペーパーボトル」という表現を用いながらも、その説明が不十分だったために、すべて紙でできた容器だという誤解を招いてしまうことに。プラスチック使用量を減らしたことは事実だったものの、宣伝方法、企業全体のイメージ戦略が消費者に与える印象を軽んじていたことで、消費者の期待感を大きく損なうことになってしまった例と言えます。

3.SDGsウォッシュを回避するためにやるべきこと

SDGsウォッシュの批判の的となってしまう主な理由は、大きく捉えて2つ挙げられます。1つはSDGsに対する取り組みが不十分な場合。もう1つは、広告コミュニケーションの方法が適切ではない場合です。安易にSDGsのロゴを掲載したり、軽々しくSDGsを掲げて企業や商品の宣伝活動をしたりすることは、SDGsウォッシュと指摘される大きなリスクにつながります。

うわべだけの取り組みではなく、SDGsの本質をしっかりと理解した上で、企業の規模や事業内容などに適した施策を考え、適切な表現でその取り組み内容を伝えていくことに留意しましょう。その際、企業のための行動指針である「SDGコンパス」を参考に取り組んでいくことも有効です。

ここでは、SDGsの取り組みが不十分にならないよう、SDGsウォッシュを回避するための方法を解説します。

>>関連記事:「STEP1┃SDGsとは?SDGsを理解し、企業が取り組むメリットを知る。」

社内のESG問題の抑制

SDGsは個人ではなく組織として取り組むべき活動です。SDGsのゴールに関連する施策に力を入れて広告をしたとしても、企業全体で考えた時に社会に及ぼしている負の面があれば、SDGsウォッシュに陥りかねません。

社会に与えるマイナスの影響を抑制するには、労災隠しや下請けいじめ、不法投棄や各種ハラスメントといったESG問題が社内に潜んでいないかをまずは見直すことが肝要です。ESG問題を抑制することがSDGsウォッシュ予防の第一歩になります。

企業理念に反する行為を予防

ESG問題を抑制して社会に迷惑をかけないだけでなく、社会から信頼される行動を積み重ねる必要があります。そのためには、企業理念の実現に向けた行動が不可欠です。

例えば自社の経営状況と市況を顧みない経営目標やKPIを設定していないか、取引相手との取引に際して相手の利益に配慮しているか、企業理念を実践するための道筋について従業員と共有できているかなどがチェックポイントになります。

企業理念に反する行為を予防することで、SDGsウォッシュのリスクを抑制しましょう。

サプライチェーンの強化

SDGsのリスク管理は、自社単独では成り立ちません。サプライチェーンを強化し、取引先のESG問題にも注意を払い、付き合うべき適切なパートナーを見極める必要があります。

もちろん取引先との意思疎通、意識の徹底を図る上では、常日頃からのサプライチェーンとの信頼関係の構築が欠かせません。自社だけの利益や施策に気を取られることなく、サプライチェーン全体に目を向けましょう。

都合の悪い情報も発信

都合の良い情報だけを一方的に発信すると社会的信頼を損ねることも。自社にとって都合が良いか悪いかという観点ではなく、事実を歪めず情報発信するということに注力することが大切です。

記録をもとに自社のSDGsの取り組みを“見せる化”し、ネガティブな事象についても自発的に発信することで、誠実な情報発信であるという信用を得ることができます

また、ステークホルダーからの声にも真摯に向き合い、適切な回答や対応をするようにしましょう。

適切な広告コミュニケーションを行う

SDGsは、せっかく取り組んでいても、適切に伝えなければ「やっていない」とみなされてしまいます。自社の取り組みを誤解なく、SDGsウォッシュと批判されないように配慮することが重要です。

適切な広告コミュニケーションの方法については、電通の「SDGsコミュニケーションガイド」にSDGsウォッシュの回避方法として以下の4つのポイントが紹介されています。こちらを参考に、自社の状況を振り返ってみましょう。

  1. 根拠がない、情報源が不明な表現を避ける
  2. 事実よりも誇張した表現を避ける
  3. 言葉の意味が規定しにくいあいまいな表現を避ける
  4. 事実と関係性の低いビジュアルを用いない

4.まとめ

今後、社会に求められる企業であり続けるためにSDGsに取り組むことは必須条件とも言えるでしょう。SDGsへの取り組みがプラスになるというよりも、むしろSDGsに取り組まないことは企業のマイナス要因につながります。

しかし一方で、誤った伝え方や過度な発信をすることは、SDGsウォッシュとして企業イメージを下げることにつながり、ひいては企業の利益、企業活動の継続に大きな影を落としかねません。

SDGsウォッシュのリスクを回避するためにも、表面だけを取り繕うような活動ではなく、SDGsの理念を正しく理解し、企業を挙げてSDGsに対して真摯に取り組むことが重要なのではないでしょうか。

参考文献

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