【ビジネス向け解説】アップサイクルとは?意味や企業の取り組み事例を紹介
2021/11/18 (更新日:2024/09/30)
リサイクルやリユースと並び、持続可能なものづくりの取り組みとして注目を浴びている「アップサイクル」。「不要となったものを再利用する」というイメージをもっている方も多いのではないでしょうか。アップサイクルとは、捨てられるはずのものに対して元よりも価値の高い新たな製品を生み出すことを指します。
現在、資源の消費やごみ処理によるCO2の排出量など地球への負荷が社会問題となり、世界中の人々がその解決に向けて活動しています。これは、どの企業にとっても例外ではなく、ファッション業界や飲食業界などにも広がりを見せているようです。
今回の記事では、混同しやすい「3R」との明確な違いを明らかにしながら、「アップサイクル」の意味を詳しく解説。積極的な取り組みが見られる企業の事例を参考に、アップサイクルを取り入れた最先端のものづくりによって、今後ビジネスにどのような期待ができるのかを考えます。
1.SDGs・ESGとの関連性は?サステナブルな社会に向けた目標
持続可能な社会づくりが叫ばれる昨今、頻繁に耳にするようになった「アップサイクル」。一方で、耳なじみのある「リサイクル」「リユース」といった言葉に比べるとやはりニッチであり、「ごく一部の制作者が行うもの」だと思っている人も少なくありません。
ところが、2015年に持続可能な開発目標「SDGs」が国連サミットで採択されて以来、特にファッション業界では大手メーカーによるアップサイクルの取り組みが活発化。さらには「ESG」の観点からアップサイクルに取り組む企業も増えたことで、さまざまな業界に広がりを見せています。
なぜ世界中でSDGsやESGに対する知識が広がったことで、アップサイクルが周知され、多くの企業がビジネスに取り入れるようになったのでしょうか。そこには日本をはじめ世界中で、かねてより問題視されてきた環境問題が背景にあります。SDGs・ESGとアップサイクルの関連性とともに解説していきます。
アップサイクルとSDGs
多くの企業や消費者によって、SDGsの目標達成に向けて取り組みが進められている現在。食品ロスや産業廃棄物、海洋汚染などの環境問題を解消するべく、さまざまな業界で持続可能な取り組みが求められるようになりました。そんな中、特にアップサイクルによる改善を目指した業界の一つがファッション業界です。
環境省によると、2020年に国内において新たに供給された衣類の量は約81.9万トンであったのに対し、このうち年間約51万トンがごみとして廃棄。これは新しい衣服の約67%が廃棄されているという計算です。原材料調達から廃棄までの過程で排出されるCO2の量は、9500万トンと推計されています。また原料の栽培や染色などに水資源を大量に消費することも問題視され続けています。こうした背景が、ファッション業界においてアップサイクルの活発な動きが見られた理由として挙げられます。
ファッション業界での主な取り組みは、古着や廃材を加工して再利用することで製品化。原材料の栽培や調達、紡績、染色、海外輸送、焼却といった工程を省くことができ、環境負荷が軽減されることが期待できます。
その結果、SDGsの17の目標のうち「12 つくる責任 つかう責任」の達成に大きく貢献。アップサイクルによる製造を行うために新たな働く環境を生むことにもつながり、「8 働きがいも経済成長も」の達成にもつながるのです。
アップサイクルとESG
2006年に国連が「責任投資原則」を発表して以来、投資家や取引先からの要請によって注目されるようになったESG。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもので、「ESG投資」という言葉でよく使われます。
ESG投資では、投資先を決める際、企業を評価する指標として収益や売上だけではなく、環境への影響、働き方、経営の公正・透明性といった点も重視されます。
企業としてアップサイクルによる製品を展開することは、環境負荷を考慮していることの表れ。ESG投資の観点で投資を集めやすくなるほか、企業の社会的評価を高めることにもつながるでしょう。
2.そもそも、アップサイクルとは?その意味を解説
アップサイクルが注目されている背景が理解できたところで、アップサイクルがもつ意味や、類義語である「ダウンサイクル」との違いについて見てみましょう。
アップサイクルの基本情報
アップサイクルの英語表記は「上げる」を意味する「Up」と、「循環」を意味する「Cycle」を組み合わせた「Up Cycle」。廃棄されるものを新たに作り変えることで循環させ、その価値を高める(アップする)ことを意味します。
例えば、洋服の色や形、素材を生かしたアレンジを施してバッグにするなど、価値を高めることは「アップサイクル」。一方で、洋服を加工して雑巾にする場合は、元の衣類より価値が下がる(ダウンする)ため、「ダウンサイクル(Down Cycle)」となります。
ものを作り変えて価値を高める、ということ自体は古くから行われていたようですが、「アップサイクル」という言葉は1994年、レイナー・ピルツ氏がドイツメディアに向けて語ったのが最初だと言われています。その後、世界的な環境危機意識の高まりを受け、取り組む企業が増加。SDGs採択後は、環境に配慮した「エシカル消費」の広まりも相まって、市場が今後さらに広がることが期待されています。
3Rと呼ばれる「リサイクル」「リユース」「リデュース」との違い
ゴミを減らす取り組みとして、「3R(スリーアール)」という言葉がよく知られています。最近では、断ることを意味する「リフューズ(Refuse)」や、修理を意味する「リペア(Repair)」を加えた「4R」や「5R」といった言葉が使われることもあるようです。
ゴミを減らす「3R」の取り組み
・リサイクル(Recycle)…資源として再生利用する
・リデュース(Reduce)…ゴミの発生や資源の消費を減らす
・リユース(Reuse)…繰り返し使う
リデュースは簡易包装やマイバッグの推奨など、最初からゴミを出さないための取り組みのこと。アップサイクルとの違いは明確であることがわかります。
一方で、リサイクルやリユースは、アップサイクルと混同しやすいかもしれません。リサイクルは、新しいものに再生させる前に、廃棄物を再生資源に分解します。生まれ変わるまでの過程が、アップサイクルとの違いです。
リユースは所有者にとって不要になったものを、別の誰かに寄付や売買することで繰り返し使うという取り組み。より価値のあるものに作り変えるアップサイクルとは異なり、手を加えることなく、そのまま再使用するのがリユースです。
3.アップサイクルとビジネスの関係(事例)
近年ではさまざまな企業が、地球環境やSDGsへの貢献を意識し、アップサイクルを実践中です。ファッション業界や飲食業界をはじめ、アップサイクルを取り入れることはもはや常識、という風潮もあるかもしれません。
ここでは、そんなアップサイクルに関連した企業活動の代表例として、各社の取り組み事例を紹介します(事例は随時、更新)。
アップサイクル×アパレル丨アーバンリサーチ「異業種協働による廃棄衣料のアップサイクル」
『アーバンリサーチ』では2018年より、「Colour Recycle Network(カラーリサイクルネットワーク)」との協働で、サステナブルマテリアル・プロダクトブランド「commpost(コンポスト)」を展開しています。同ネットワークは、異なる素材や品質が混合することで素材分別が難しい廃棄繊維を色で分け、付加価値のある素材にリサイクルする研究を行う組織です。
こうした研究から生まれる新素材を使うことで、自社の製品がもつ色味を生かしながら新たな製品を開発。単なるリサイクルではなく、ファッションブランドならではの「アイデンティティー」を最大限に引き出したアップサイクル製品に生まれ変わらせます。ラインアップは、多用途で使える収納バッグやトートバッグ、iPhoneケースなど。2021年度のグッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞し、ファッション業界におけるアップサイクルへの取り組みが高く評価された一例です。
アップサイクル×飲食丨セブン&アイ・フードシステムズ「LIMEXを使用したメニュー表がドリンクトレーに再生」
『セブン&アイ・フードシステムズ』は、『株式会社TBM』、『リコージャパン株式会社』との3社連携によるアップサイクルスキームを構築しています。
まず、 セブン&アイ・フードシステムズが運営するカフェ『麴町珈琲』のメニュー表に使う素材を、TBMの開発する石灰石を主原料とする新素材「LIMEX(ライメックス)」に変更し、印刷には環境性能の高いカラープロダクションプリンター「RICOH Pro 7210S」を使用。古くなったメニュー表を回収し、ドリンクバー用のトレーとして再製品化して、セブン&アイ・フードシステムズによるレストラン事業『デニーズ』の店舗で使うという仕組みを整えました。限りある水資源の有効活用や石油依存の低減、廃棄物の削減などを実現し、サステナブルな社会づくりへとつなげた効果的な事例です。
アップサイクル×飲食丨アサヒグループ「廃棄コーヒー豆から生まれ変わるクラフトビール」
大手飲料メーカーの『アサヒグループ』でサステナビリティ事業を担う『アサヒユウアス株式会社』では、欧州発のサステナブルファッションブランド「ECOALF(エコアルフ)」とコラボしたアップサイクルの取り組みとして、2021年7月よりクラフトビール「蔵前BLACK」を数量限定で直営の外食店舗8店舗などで、販売しています。
この商品は、コーヒー豆焙煎店で管理上の問題などから廃棄されていたコーヒー豆を回収し、スタウトビールを醸造した後に、抽出したコーヒーを加えてアルコール度数4.5%に仕上げたもの。
豆の回収は福祉作業所で働く障がい者の方々が担うことで、働く機会を創出することにもつながっています。ビールユーザーだけでなく、エシカル消費を好む消費者に向けた普及啓発活動となった事例です。
アップサイクル×飲食丨アサヒグループ「タンブラーやジョッキを再利用し、新たなタンブラーへ」
さらに『アサヒユウアス株式会社』では、飲食店で破損したり不要になったタンブラーやジョッキをハンドメイドタンブラーにアップサイクルし、『UPCYCLE Bタンブラー 津軽びいどろ』として販売する取り組みを2022年10月27日より開始。北洋硝子株式会社(本社 青森、社長 壁屋知則)の伝統工芸「津軽びいどろ」との共創で取り組んでおり、タンブラーのアップサイクルは日本初です。
ビール瓶などのリターナブル瓶はリユースされ、資源として回収されるワンウェイ瓶は瓶の原料やカレットとして再利用されます。ジョッキや食器などのガラスはそれぞれの原材料が異なることや着色されていることから再溶融して成形することが難しく、多くは廃棄物として埋め立てられていましたが、北洋硝子が持つガラス成形の高い技術によりタンブラーへの再成形が実現しました。
廃棄物を削減し環境負荷低減に取り組むと同時に、伝統工芸技術を生かし付加価値のある商品として販売することで地域産業活性化に貢献します。将来的には、ガラス食器のアップサイクル技術を他地域へ水平展開することを目指しています。
※文章、画像は企業に掲載許可をいただいております。無断転載はご遠慮ください。
4.今後注目! アップサイクル〇〇
アップサイクルは各業界へ普及しつつあり、ますます広がりを見せていくことが予想されます。ここでは「アップサイクルファッション」「アップサイクルフード」など関連カテゴリーを解説しながら、今後の新しいアップサイクルの概念について考えていきます。
アップサイクルファッション
アップサイクルファッションとは、環境への負荷が問題視されるファッション業界において産業廃棄物を有効活用する施策の一つです。
例えば、売れ残ってしまった「デッドストック」と呼ばれる在庫商品や古着アイテムに、新たなデザインやパーツを加えて価値を高めることで、再販売するケースが見られます。あるいは、着る機会がなくなった着物からバッグをつくったり、製造過程で余った切れ端を使って新たな衣類を生み出したりといった、環境に配慮した製造が行われます。
もともとファッション製品ではない自動車部品や木材、紙などを使って、アクセサリーやバッグ、ネクタイなどのファッションアイテムを生み出すこともあります。
アップサイクルグッズ
廃棄されるはずの材料から生まれた雑貨や日用品、インテリアなどは、アップサイクルグッズと呼ぶことがあります。
例えば、収穫されて産業廃棄物となるホタテの貝殻からつくられた洗剤パウダーや、廃木材を利用したテーブルや椅子、布の切れ端からつくるブックカバーなど、日常のあらゆる場面で使うアイテムを、アップサイクルグッズに置き換えることができます。
アップサイクルフード(アップサイクル食品)
農林水産省によると、世界では年間13億トンもの食品が廃棄されており、そのうち日本では約612万トンを廃棄しています。こうした状況の改善に向けて、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」では「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」というターゲットが設定されました。この「食品ロス減少」の達成に貢献する取り組みの一つが、アップサイクルフードです。
米企業を中心とした約70社が参加するアップサイクル食品協会によると、「本来は人間の食用にされなかった原材料を用い、検証可能なサプライチェーンで調達・生産され、環境に良い影響をもたらす食品」だと定義づけられています。
例えば醸造に使った豆の残りかすや肉の切れ端など、食品の製造過程で生まれた廃棄物を使って、ジャムやグラノーラ、パフスナックなどをつくるといったことが当てはまります。
アップサイクルビジネス
企業の取り組みをはじめとした、アップサイクルを取り入れたビジネスを「アップサイクルビジネス」と称することがあります。
環境問題の改善に役立てられることはもちろん、廃棄物や不良品、売れ残り品から製造を行うため材料のコストダウンも可能に。さらにアップサイクルは質の良い製品へと生まれ変わらせることを目的とするため、クオリティの高いものづくりが実現できます。
また環境や社会に配慮した消費行動である「エシカル消費」に取り組む消費者の増加に伴い、アップサイクルの取り組みをビジネスに取り入れる企業が増えているとされます。
5.【番外編】アップサイクルに関連する言葉
最後に、アップサイクルをより理解するために役立つ、さまざまな関連用語について解説します。
サステナブル
サステナブル(Sustainable)は「持続可能な」と訳される言葉。「Sustainable Development Goals(サステナブル デベロップメント ゴールズ)」の略称である「SDGs」の採択以来、日常生活や企業活動で使われることが多くなっています。アップサイクルの取り組みは、サステナブルなものづくりの一つの方法だと言えます。
エシカル
「倫理的な」と訳されるエシカル(Ethical)。 一般社団法人エシカル協会によると、 「法的な縛りはないけれども、多くの人たちが正しいと思うことで、人間が本来持つ良心から発生した社会的な規範」と定義される言葉です。
例えば、環境負荷を軽減させる取り組みであるアップサイクルによって生まれた製品を選んで購入することは、エシカルな消費行動に含まれます。環境や社会、地域、生物多様性、そして働く人に対して配慮した行動や、その考え方を表しているのです。
フェアトレード
フェアトレードとは、発展途上国で生産された原料や製品を適正な価格で継続的に購入し、それによって発展途上国の生産者や労働者の生活改善を目指す仕組みのこと。
国際フェアトレード認証などの認証機関があり、認証を受けた製品にはラベルを付けることができます。消費者がフェアトレード製品を積極的に選んで購入したいという場合、このラベルが目印となります。
エコ
「環境にやさしい」という意味で使われ、生態学・自然環境と訳される「エコロジー(Ecology)」 と、経済を意味する「エコノミー(Economy)」の2つの単語の略称として使われる用語「エコ」。
近年では環境と経済、どちらの意味も含む言葉として使われることが増えてきました。企業としてアップサイクルに取り組むことは、エコ活動の一つだと言えるでしょう。
サーキュラーエコノミー
サーキュラーエコノミーは、「循環型経済」または「循環経済」と訳される言葉。経済産業省による定義では「あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を図る経済」とされています。
ヨーロッパをはじめとする世界各国では、サーキュラーエコノミーへの転換が推進されています。企業としてアップサイクルを行うことは、サーキュラーエコノミーの実現へのアプローチの一つです。
6.アップサイクルを取り入れたものづくりで、SDGsにさらに貢献できる企業へ
アップサイクルの取り組みが、私たちが暮らす地球の環境を守るために、どのように役立てられるのか。その役割と、ビジネスにもたらす影響について理解を深めることができたでしょうか。
各業界のリーディングカンパニーによる導入実績が増えてきた今、アップサイクルを取り入れることはもはや「常識」といっても過言ではありません。
まずは自社の取り組みや、扱っている商品、つくりたいグッズなどを考慮したうえで、どのような素材を用いてアップサイクルへとつなげるのか、その道筋を立てるところから慎重に行う必要があるでしょう。アイグッズではサステナブル素材を使ったOEM、ODMなどのノウハウを生かし、こうしたサステナブルな取り組みを行う企業をサポートしています。
アップサイクルをはじめとした環境にやさしいものづくりを通して、SDGs活動への取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
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