SDGs自社への落とし込み

STEP3┃優先課題を基に計測可能な目標を設定し、達成度を高める。

2021/09/09 (更新日:2021/11/29)

優先的に取り組むべき課題が特定できたら、次は特定した優先課題に対して目標を設定します。目標を設定して共有することは、社内において、部署ごとの目標に落とし込みやすくなり、より主体的な関与を促すことにつながるでしょう。また、社外に対して目標を共有することは、バリューチェーン全体を向上させる機会につながるなど、重要な意義を持ちます。

シリーズ「SDGs自社への落とし込み5step完全解説」では、SDG Compassの核となる5つのステップに沿って、SDGsに取り組むための方法を解説していきます。ステップ3では、4つのプロセスで目標を設定。目標設定をする上での注意点や、より達成度を高めるための目標設定のポイントを含めて解説します。 

>>SDG Compass 

1.目標範囲を設定し、計測可能なKPIを選択する

目標を設定する際にやるべきことを把握し、注意点を意識する。

SDG Compassでは、4つの項目に沿って目標を設定することを推奨しています。まずは、ステップ2で決定した戦略的優先課題から、目標の範囲を設定すること。次に、各目標のベースラインを設定し、目標タイプを選択する。続いて、目標に対する意欲度を設定し、最後に、SDGsへのコミットメントを公表します。

この目標設定のプロセスを通して注意すべき点として、下記のようなことが挙げられます。

目標設定における注意点

・目標は具体的かつ計測可能で、達成可能、さらに期限付きの目標であること

・目標設定に際しては、社内外の主要なステークホルダーと協議をすること

・負の影響を及ぼす優先課題に対する目標の場合は、負の影響を抑制するだけではなく、正の影響や事業機会を提供するものとなること

・正の影響を及ぼす優先課題に対する目標を立てる際には、正の影響を拡大できるかどうかという視点と同時に、負の影響を拡大させるものではないか確認すること

・目標が企業の事業にとどまらず、バリューチェーン全体を向上させる機会を提供するものであること

目標の範囲を設定し、進捗状況を計測できるKPIを選択する。

SDG Compassでは、持続可能な開発の経済的・社会的・環境的な側面すべてを対象に、自ら決定した優先課題全体を網羅する目標を設定することを推奨しています。

これは例えば、炭素排出量や自然資源の使用量などに関する環境目標だけではなく、貧困根絶や汚職対策なども含めた目標設定であることが望ましいということです。

このように、社会的な目標を含めた目標範囲を定めた上で重要となるのが、目標に対する進捗を促進・モニタリングし、進捗状況を公表するためのKPIです。

中間目標の達成度を図る指標「KPI」を活用し、プロセスを明確に。

ビジネス業界でしばしば耳にするKPIというキーワードですが、改めてその意味をおさらいしておきましょう。KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、日本語では主要業績評価指標、重要業績評価指標などと訳されます。これは、ビジネス業界において、最終的なゴールを定量的に図る指標KGI(重要目標達成指標)を達成するための、中間目標(過程)の達成度合いを図る指標。つまり、KGIを分解して戦略的に定めた指標がKPIになります。1つのKGIに対して、中間目標であるKPIは複数のレベルで使用することが可能です。

適切なKPIを設定して可視化することにより、到達すべき目標に対するプロセスが明確になり、次に起こすべきアクションを明らかにするというメリットもあります。

活動の影響または結果に直接対応するKPIを設定する。 

KPIを設定する時には、各優先課題に対し、その活動の影響や結果に直接対応する、企業が与えている影響を最もよく示している指標を選択することが大切です。

取り組みに対する成果を評価する指標は、できる限り数値化でき、一般的に使われている指標が望ましいとされています。そこで念頭に置いておきたいのが、KPIを決める際に求められる“SMART”の要素です。

KPIを決める時に留意したい“SMART”

S(Specific)…目指す成果は具体的?

M(Measurable)…客観的な数値で成果を評価できる?

A(Achievable)…現実的な努力で達成できる?

R(Relevant)…成果と指標の間に関連性はある?

T(Time-bound)…目標とすべき達成期限は設定してある?

企業によっては、目標の範囲や期限を明確に規定することなく、例えば「カーボンニュートラルを達成する」といった抽象的な表現で目標を掲げているケースがあります。しかし、このような大くくりの目標、曖昧な目標では、進捗状況を計測できません。

一つひとつが具体的かつ計測可能で、期限を区切ったターゲットの基盤となるKPIであるかどうかを、今一度見直してみましょう。

また、KPIは自社で設定するという方法のほか、既存のKPIから選ぶ方法もあります。SDG Compassのウェブサイトでまとめられている、各SDGターゲットに対応する一般的な事業指標も参考にしましょう。

2.データの基準値を設定した上で、相対目標か絶対目標かを決定する

KPIについて、ベースラインを設定し、目標タイプを選択する。

各目標のKPIの達成度をより明確にするためには、ベースライン、つまり基準値を設定することが重要です。あわせて、設定する目標が絶対目標であるか、相対目標であるかをしっかりと把握した上で、それを補うための説明が求められています。

各目標について、特定の時点や特定の期間など基準値=ベースラインを設定する。

いつの時点、いつの期間のデータを基準とするかによって、目標達成の可能性が大きく左右されます。

例えば、女性役員数を増加させるという目標に対して、特定の時点=2013年末を基準にした場合、「女性の役員数を2013年末のベースラインと比較して、2020年末までに40%増加させる」と目標を具体化することができます。

また、特定の期間をベースラインにする例としては、「2018年から2020年までの3年間の平均の水使用量を、2006年から2008年までの平均水使用量と比較して50%削減する」というような目標の設定になります。

いずれを選択する場合にも、基準値を策定する際には、その目標に関わりのあるステークホルダーと協議をした上で、理想と現実が乖離しすぎないように検討を重ねましょう。基準値を決めるにあたっては、国内外の同業他社の数値を参考にするのも1つの方法です。

特定のベースラインについて、なぜそのベースラインを選択したかという理由や、選択に至った経緯についても、透明性を確保するようにしましょう。

総量を見る絶対目標?産出単位と比較する相対目標?

目標は一般的に、絶対目標と相対目標に分類されます。設定した目標が絶対目標か、相対目標かを検証し、目標タイプを決めましょう。

絶対目標とはKPIのみを考慮した数値目標。例えば、安全衛生事象の発生率を2015年から2020年までに30%削減するという目標があてはまります。一方、相対目標はKPIを産出の単位と比較するもの。企業の単位売上高に対するスコープ1の温室効果ガス排出量を2014年から2018年までに25%削減するといったような目標を指します。

すなわち、設定した目標が総量を見る目標か、産出の単位と比較した目標かによって、絶対目標と相対目標のいずれかに分類されるのです。

絶対目標は、社会に対して及ぼすであろう影響を表すのには最適ですが、企業の取り組みの成果が考慮されません。また、相対目標は、産出単位当たりの達成度の測定には正確性を発揮するものの、目標が社会全体に与える影響については把握しきれません。

住友化学では、気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献するグループの製品・技術を“Sumika Sustainable Solutions(SSS)”として自社で認定する取り組みを推進。

「自社の認定基準を満たす製品を増やし、売上を倍増させる」といった絶対目標を掲げ、取り組みを進めています。

また、製品の製造過程で水を資源とするサントリーでは、「水ストレスの高い地域を中心に、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養する」といった相対目標を掲げました。2020年の目標数値でしたが、1年前倒しして2019年に達成しています。

各企業は、絶対目標と相対目標、2つの目標タイプの特徴を念頭に置き、適切に使い分けることが必要になるでしょう。

3.目標に対する意欲度を設定する

メッセージ性の強いインパクトある目標を設定し、自社や同業他社のモチベーションを高める。

目標設定においては、控えめな目標よりも意欲的な目標が求められ、そのほうが大きな影響や達成度が期待できます。意欲的な目標を設定することにより、自社のイノベーションや創造性を促進させること、また、宣伝効果や同業他社に働きかける効果を高めることなどが期待できるのです。

>>STEP2「未来像から“バックキャスティング=逆算”で長期、中期、短期の戦略を立てる。」

意欲度の設定において鍵を握るのが、目標達成に向けての時間軸の設定です。例えば「2025年までに、自社のエネルギー需要を75%、再生可能エネルギーでまかなう」という目標と、「2030年までに自社のエネルギー需要を100%、再生可能エネルギーでまかなう」という目標を比較した時、どちらが印象に残るでしょうか。

後者の方が前者よりもメッセージ性が強く、インパクトを持って発信することができます。つまり、目標達成までの時間軸を長くとった方が、より大きなメッセージを打ち出すことができるのです。

ただし、時間軸の長い長期的な目標ほど、説明責任が曖昧になるというデメリットも。そのため、長期的な目標を打ち出す時には、短期・中期の目標もあわせて設定するようにしましょう。

意欲的な目標の事例

・太陽住建

太陽光発電の施工事業を手がける企業。横浜市がゼロカーボンを目指して掲げた、再生エネルギー発電量目標である12.15%の達成に向けて、自社の太陽光発電パネルにより、2030年までに実現するという目標を設定。

2030年に向けて目標を設定した2019年時点では、設置した太陽光発電量は196.7kWだったが、1年後の2020年時点での数値では、414.03 kWと倍以上になっている。

[出典]/太陽住建SDGsレポート2020/https://www.taiyojyuken.jp/wp/wp-content/uploads/taiyojyuken_JPN_20210216_FINAL_web-3.pdf

ダイキン工業

パリ協定に賛同し、2050年に向けて、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げた「環境ビジョン2050」を策定。Science Based Targets Initiative(科学的根拠に基づき、必要となるCO2排出量削減を求める国際イニシアチブ)に取り組むことも宣言している。

2021年度から2025年度までの戦略経営計画「FUSION25」においても、「環境ビジョン2050」で宣言した「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」 という目標達成に向けて、2019年を基準年に設定し未対策のまま事業成長した場合の排出量と比べて (成り行き比)温室効果ガス実質排出量を2025年に30%以上、2030年に50%以上の削減を目指すことが明記された。

[出典]/ダイキン工業 ニュースリリース/https://www.daikin.co.jp/press/2021/20210607/

アウトサイド・インのアプローチで、社会全体を捉えて自社に落とし込めているか確認する。

ここまで目標をより詳細に決めていくと、どうしても“自社でできること”の現状に目が向きがちです。そこで、アウトサイド・インのアプローチを使って、常に「正しい手順で目標設定できているか」「社内に目が向き過ぎていないか」「社会全体を捉えて自社に落とし込めているか」を確認できる機会を作りましょう。

アウトサイド・インとは、社会的、あるいは世界的ニーズに基づき、外部にある問題や課題を起点に解決方法を考えるアプローチ方法です。

従来、企業における基本的な考え方としては、現在および過去の自社の業績を分析して今後の動向と道筋を予測する方法や、同業他社の達成度などを基準に評価する、いわゆるインサイド・アウトのアプローチが一般的でした。

しかし、あるべき未来像に向かって目標を掲げ、実践することが求められる世界的な取り組みであるSDGsの達成に向けては、インサイド・アウトの考え方だけでは、世界が抱える課題に十分対応することはできません。

インサイド・アウトによる考え方は、自社とSDGsの接点を探したり、すぐに着手できる目先のアクションを検討したりする段階では活用できますが、SDGsの根本的な解決策、取り組みを考える上では不十分です。

自社の事業や取り組みが社会や環境にどう影響を及ぼすかを考えるインサイド・アウトではなく、解決しなければならない社会や環境の問題を考え、その解決に向けてどのような取り組みが必要かを考えるアウトサイド・インこそ、SDGs達成の肝となる考え方と言えるでしょう

また近年は、アウトサイド・インのアプローチを推進、支援する取り組みも増えています。

アウトサイド・インのアプローチを推進・支援する取り組み

SBTイニシアチブ

SBTは「Science Based Targets」の略称で、「科学的根拠に基づく目標」という意味。世界の気温上昇を2℃以下に抑制すべきであるという水準に向けて、科学的な知見に基づいた削減目標を企業が設定できるように、ツールと方法論を開発している。

Future-Fit ビジネス・ベンチマーク

社会科学と自然科学に基づき、すべての企業が達成を求められる絶対目標群を定めている。企業の将来あるべき姿と現状を比較し、自社の事業が目標に対してどのくらい到達しているかを客観的に評価できるツール。

WBCSDの2020に向けた行動(Action2020)

ストックホルム・レジリエンス・センターが主導する科学的レビューに基づき、社会的な目標である「Societal Must-Haves(社会的必須項目)」や「Priority Areas(優先課題分野)」を定めている。

その他に、国や自治体が掲げているSDGs関連の重要項目を参考に、その目標に貢献するように自社の意欲度を設定するという方法も、選択肢の1つです。

4.SDGsへのコミットメントを公表する

SDGsへのコミットメントを公表することで、社内や取引先の意欲を引き出す。

設定した目標の一部、もしくはすべてを、CSR 報告書やホームページなどで公表することは、企業にとって効果的な情報発信の手段となります。大手企業なら株主総会などで宣言することも有効でしょう。それは、持続可能な開発に取り組む企業としての意志を表現し、内外へアピールする絶好の機会となるからです。

また、SDGsの実現を目指すための目標を公表することは、従業員や取引先のモチベーションを高め、積極的な取り組みを引き出すことにもつながります。さらに、外部のステークホルダーとの建設的な対話を生む基盤にもなるでしょう。

しかし一方で、リスクに対する認識も深めておくべきです。公開した目標を、期限内に達成できなかった場合、批判の対象となる可能性もあります。

このリスクに対処するためには、情報を定期的に発信し、取り組みの内容や達成状況、現時点で抱えている課題などについて透明性を確保することが有効です。

SDGsへのコミットメント公表事例

・サントリーグループhttps://www.suntory.co.jp/company/csr/

目標を明確に表明し、定期的に進捗を発信。

・オムロンhttps://sustainability.omron.com/jp/omron_csr/tasks_goals/

目標と進捗を課題ごとにわかりやすく整理して公表。

5.まとめ

具体的かつ計測可能な目標の達成に向けて、事業に落とし込もう。

本記事では、優先課題に取り組むための目標設定に関するプロセスを紹介しました。 重要となるのは、具体的であり、かつ計測可能、達成可能な目標を立てることです。そのために、適切なKPIやベースラインを設定し、アウトサイド・インのアプローチによって意欲度を設定すること。そして、目標を公表することで、社内や取引先など周囲のやる気を引き出すことが達成度を高めることにつながります。

次の記事では、設定した目標の達成に向けて、取り組み内容を事業に落とし込み、SDGsを組織に定着させるための流れを解説します。

>>STEP4┃経営へ統合する

ステップ3のアイグッズ的ポイント

・優先課題に対する目標は、負の影響を抑制するだけではなく、正の影響を拡大できるかどうかを確認する

・ステークホルダーとの密接なコミュニケーションにより、適切なKPIやベースラインを設定することが重要

・インサイド・アウトからアウトサイド・インの思考に転換しなければ、SDGsの達成は難しい

・SDGsへのコミットメントをCSR 報告書やホームページ、株主総会などで公表することで、持続可能な開発に取り組む企業としての姿勢を内外へアピールできる

参考文献

「SDG Compass」(GRI・UNGC・WBCSD)

「すべての企業が持続的に発展するために-持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド-[第2版]」(環境省)

「Innovation for SDGs -Road to Society 5.0-」(日本経済団体連合会)

・『図解入門ビジネス 最新SDGsの手法とツールがよ~くわかる本』(秀和システム)

・『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門』(技術評論社)

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