生分解性プラスチックとは?注目の背景・今後の課題と活用のコツ
2024/09/27 (更新日:2024/11/15)
近年、関心度が急上昇している「生分解性プラスチック」。ごみ削減と脱プラスチックが社会的な責任として課せられている現代において、解決の鍵を握る素材です。
ただ、生分解性プラスチックと一口にいってもさまざまな種類があり、それぞれの性質をよく理解していないと効果的に活用できないかもしれません。また、今もなお開発が進められている分野のため、課題も多く残されています。
今回は、生分解性プラスチックとはどんな素材なのか、注目の背景も踏まえて分かりやすくまとめました。メリットや問題点のほか、どんなポイントに気をつけて導入すればよいかもお伝えします。従来のプラスチックからの脱却・転換を目指す企業の方は、ぜひ参考にしてください。
1.生分解性プラスチックとは?
はじめに、生分解性プラスチックの特徴と原理を解説します。原料や作り方、現在実用化されている種類も踏まえて、生分解性プラスチックへの理解を深めていきましょう。
生分解性プラスチックの特徴
生分解性プラスチックとは、自然界へ循環する性質を持つバイオ素材の一種です。炭素(C)水素(H)酸素(O)のみで構成されており、使用後はCO2と水に分解され、自然に還ります。ごみ削減および環境負荷軽減の効果が期待できるため、従来のプラスチックの代替品として大注目の新素材です。
生分解性プラスチックは、日本バイオプラスチック協会の識別表示制度による「生分解性プラマーク」の有無で区別されています。使用が認められるのは、素材の分解度が一定の基準をクリアしている製品のみです。
生分解性プラスチックの原理
生分解性プラスチックは、微生物の働きで、物質を分子レベルまで完全分解する原理が用いられています。
従来のプラスチックは、自然界へ流出すると光と熱を浴びた添加剤などの酸化作用で徐々に分子が破壊されるものの、完全になくなることはありません。
一方、生分解性プラスチックは、物質が分解されて残存せず、CO2と水になって自然界に循環されていきます。
生分解性プラスチックの原料と作り方
生分解性プラスチックには以下の3種類があり、それぞれ原料が異なります。
分類 | 原料 |
---|---|
バイオマス由来 | 植物の糖(デンプン・セルロース)や油脂 |
化石資源由来 | 石油・石炭や天然ガス |
バイオ・化石混合系 | バイオマス・化石資源の混合材 |
なお、バイオマス由来の生分解性プラスチックは、トウモロコシやサトウキビ、パーム油などの再生可能な植物が原料です。
石油・石炭や天然ガスから作られる化石資源由来だと素材としての使い勝手が良く、従来のプラスチックよりCO2排出量が抑えられます。
また、生分解性プラスチックの作り方は、主に発酵法と化学合成法の2通りです。発酵法では植物由来の糖類・油脂から生成したエタノールで樹脂が作られます。一方、化学合成法は植物原料や化石資源の化学反応を利用する製法です。
上記から分かるとおり、生分解性プラスチックは原料が限定されているわけではなく、最終的にCO2と水に分解されるかどうかが重視されます。
日本で実用化されている生分解性プラスチックの種類
国内では、次の種類の生分解性プラスチックが展開されています。
バイオマス由来
略称 | 物質名 |
---|---|
PLA | ポリ乳酸 |
PHBH | 3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシヘキサノエート |
化石資源由来
略称 | 物質名 |
---|---|
PGA | ポリグリコール酸 |
PETS | ポリエチレンテレフタレートサクシネート |
PBS | ポリブチレンサクシネート |
PBSA | ポリブチレンサクシネートアジペート |
PVA | ポリビニルアルコール |
バイオ・化石混合系
略称 | 物質名 |
---|---|
− | 澱粉ポリエステル |
− | ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体 |
− | ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体 |
− | ブタンジオール/長鎖ジカルボン酸共重合体 |
PBAT | ポリブチレンアジペート/テレフタレート |
− | ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート |
現在、日本で流通している生分解性プラスチックの約7割がPLAなどのバイオマス由来です。
バイオマス由来の生分解性プラスチックは循環するうえ、燃焼時のCO2排出量も少ないため、カーボンニュートラルの観点から理想的だといえます。
ただ、バイオマス由来の生分解性プラスチックは安定した調達が難しく、製造コストが高くなりがちです。また、現時点では分解の制御・安定化が難しく、実用化されていない生分解性プラスチックも多いため、新たな原料・製法の開発が求められています。
関連記事>>サステナブルなプラスチックで注目の「PLA樹脂」とは?カーボンニュートラルな生分解性エコ素材を解説
2.生分解性プラスチックの使用例
生分解性プラスチックは、物質が完全分解されて残存しない性質を活かし、次のようなツール・グッズの素材として使用されています。
資材
【使用例】
- 農業用マルチフィルム
- 燻蒸シート
- マークテープ
- 獣害対策忌避ネット
- 断熱材
- 梱包・包装材
- 釣り糸・魚網
食品
【使用例】
- 包装袋
- トレイ
医療
【使用例】
- 手術用縫合糸
- 医用フィルム
- 医用不織布
日用品
【使用例】
- カトラリー
- 使い捨てコップ
- ストロー
- 歯ブラシ
- ティーバッグ
- 生ごみの収集袋
- 生理用品
- オムツ
農業・土木や漁業などの資材から生活用品、趣味の活動に使えるグッズまで、幅広いジャンルで活躍する可能性を秘めています。
関連記事>>「サスティナブル梱包」を取り入れるには?SDGs時代の梱包・包装材「ポリ乳酸(PLA)」「ストーンペーパー」「グリーンナノ」を解説
3.生分解性プラスチック製品への関心が高まる背景
現代において生分解性プラスチックから作られた製品に多くの関心が寄せられている背景には、次の3つの要因が深く関わっています。
- プラスチックごみ問題の深刻化
- 循環経済(サーキュラーエコノミー)への転換
- プラスチック資源循環法の施行
プラスチックごみ問題の深刻化
プラスチックごみ・海洋ごみ問題の深刻化は、生分解性プラスチックが必要とされる直接的な要因です。
1950年から現在までに生産されたプラスチックの量は83億トンを超えており、そのうち63億トンが処分されています。そのうち、リサイクルされるプラスチックごみの割合はわずか9%程度であり、残りの約80%の処分方法は埋立もしくは海洋などへの投棄です。2020年のプラスチック生産量は3億6,700トン、さらに20年後には約2倍になることが予想されていることから、環境に与える影響は甚大だと考えられています。
したがって、海洋ごみ問題の解決には、プラスチックの代替品が必要であり、そこで注目されている新素材こそ生分解性プラスチックです。
循環経済(サーキュラーエコノミー)への転換
現代は、従来の大量生産・大量消費社会から「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への過渡期です。
循環経済(サーキュラーエコノミー)とは、廃棄物を新たな資源として再利用する活動を指します。主な活動内容は、3R(リデュース:Reduce・リユース:Reuse・リサイクル:Recycle)の推進や資源投入量・消費量の抑制、今ある資源の有効活用などです。
従来の経済システムは、生産から廃棄への一方通行でした。しかし現在では、持続可能な社会の実現へ向け、世界中で多種多様なビジネスモデルが生まれています。
この循環経済実現のための優先課題がプラスチック資源の循環です。目標や法制度にもバイオプラスチック導入に関する事項が盛り込まれ、ビジネスの成長戦略における一つの軸になりつつあります。
関連記事>>循環経済(サーキュラーエコノミー)の実現を急げ!先進事例を読み解き、未来を拓くビジネスモデルの見直しを
プラスチック資源循環法の施行
「プラスチック資源循環法」とは、2022年4月に施行された比較的新しい法律です。プラスチック製品の循環促進を目的とし、従来の3R活動にRenewable(リニューアブル)を新たに加えた新しい概念が掲げられています。
この法律の施行にともない、日本国内における脱プラスチックの重要性がさらに高まりました。「つくる責任」に関する仕組み・指針が導入され、一部のプラスチック製品が有料化しています。プラスチックに代わるサステナブルな新たな資源の活用は、関連事業者の目下の急務です。そうした事情から、同じように使えてエコな生分解性プラスチックの有用性が注目され始めました。
関連記事>>2022年4月施行の新法案「プラスチック資源循環法」とは?対象製品や企業の対策を徹底解説!
4.生分解性プラスチックのメリットと問題点
生分解性プラスチックは、脱プラスチックやゼロ・ウェイストに貢献できる可能性を秘めた素材です。ただ、まだ問題点も多く、普及推進が課題となっています。ここからは、生分解性のメリットと問題点を踏まえて、今後の展望を考えていきましょう。
生分解性プラスチックの利点
生分解性プラスチックの主なメリットは、以下の2点です。
- プラスチックごみの削減
- プラスチックごみの再資源化
生分解性プラスチックは土に埋めればCO2と水に分解されるため、焼却処理するごみの量が減り、結果としてCO2の排出量の減少につながります。
仮に従来のプラスチック1トンを焼却した場合、排出されるCO2の量は約2,600kgになるそうです。一方、生分解性プラスチックをコンポスト処分すると、わずか600kgの排出量にとどまるといわれています。つまり、従来のプラスチックの代わりに生分解性プラスチックを導入すれば、CO2排出量を4分の1以下に減らせる可能性があるということです。
また、生ごみや食べ残しなどと生分解性プラスチックを一緒に捨てれば、そのまま堆肥としてコンポスト(再資源化)できます。特に飲食業やホテル・旅館など多くのごみを排出する業種でコンポストを導入すれば、大きな効果が得られるでしょう。
生分解性プラスチックの課題
生分解性プラスチックは前述のとおり識別表示制度を設け品質保証と普及に努めているものの、なかなか進まないのが実情です。
普及を妨げる大きな要因となっているのが、分解条件が限定的なうえ時間もかかり、使い勝手がよいとはいえない点だといえます。また、石油プラスチックと比べて製造コストが高いにもかかわらず、現状では性能・強度・用途の幅が従来品を上回らないことも弱点の一つです。
また、使用後に発酵・堆肥化させるためのコンポスト施設の建設も遅れており、廃棄処理上の問題もあります。さらに、土壌で分解されても海では残存する生分解性プラスチックも多いため、海洋ごみ問題の解消にはつながりません。
したがって、生分解性プラスチックの普及拡大のためには、さらなる技術の進歩が課題です。現在の生分解性プラスチックの問題点が解決できる新素材が量産できるようになれば、その分コストも下がり、活用しやすくなるでしょう。加えて、広報活動を推進し、消費者の関心・理解を集めることも必要です。
5.生分解性プラスチック活用のポイント
これまで説明したとおり、生分解性プラスチックは現段階ではまだ利便性が高いとは言えない部分もあります。しかし、次の3つのポイントを押さえることで、ぐっと使いやすくなるはずです。
- 従来のプラスチック製品と併用する
- 生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックを使い分ける
- 素材ごとの分解条件による分解時間の違いを理解する
従来のプラスチック製品と併用する
一気に生分解性プラスチックに置き換えるのは非常に困難なため、まずは従来のプラスチックとの併用から取り組んでみてはいかがでしょうか。直接自然に流出する可能性が高く、業務効率化などに直結する一部の非耐久財を生分解性プラスチックに置き換えるだけでも、大きな一歩です。ただし、従来のプラスチックと併用する場合は、必ず分別して処分しましょう。
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックを使い分ける
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックは、どちらもバイオプラスチックの一種ですが、それぞれ適切な取り扱い方法が異なります。
バイオマスプラスチックは、化石資源の代わりにバイオマスという再生可能資源を原料にした樹脂です。バイオマス由来の生分解性プラスチックがあるため混同されがちですが、バイオマスプラスチックは非生分解性であり、完全には自然に還りません。同じ方法で廃棄処分することはできないため、きちんと使い分けるよう注意してください。
素材ごとの分解条件による分解時間の違いを理解する
生分解性プラスチックの分解時間は、温度・湿度・微生物などの条件によって変わります。最適な条件は素材ごとに違い、ベストな分解時間は製品の種類によってさまざまです。
そのため、それぞれの生分解の性質を正しく理解し、処分方法に反映させなければなりません。なお、大型堆肥化装置を利用するとスピードアップするため、必要に応じて活用するとよいでしょう。
【SUSPRO事例】生分解性プラスチック×自然由来素材でよりエコな製品に
プラスチックの中で最もエコと呼ばれる生分解性プラスチック。自然由来の素材を混ぜた製品を制作することで、よりエコな取り組みに参画できます。
例えば、弊社は廃棄予定のコーヒー抽出後のかすと生分解性プラスチックを混ぜた製品を開発しました。土に還る生分解性プラスチックの特徴と廃棄物であるコーヒー粉を価値あるものに生まれ変わらせた点で、よりエコだとの評価をいただいています。色味もシックなブラウンで、素材ならではのつぶつぶ感もおしゃれだと好評です。
このように「生分解性プラスチック×自然由来素材」を掛け合わせることで、自社ならではのよりエコな取り組みが叶います。
6.生分解性プラスチック製品の導入でサステナブルな未来を!
生分解性プラスチックは、循環型のサステナブルな次世代素材です。自社製品に取り入れることで、ゴミ削減やサーキュラーエコノミーの実現、脱プラスチックに向けて大きく前進できます。イチオシはよりエコなバイオ由来の生分解性プラスチック。焼却や埋立、海洋投棄による処分が行われる製品・備品・資材から、生分解性プラスチックにシフトしてみてはいかがでしょうか?
多彩なエコ素材のOEM制作なら「SUS selection」へおまかせください。フルオーダーグッズ制作のプロとして、高品質と安心のご提供をお約束します。今後は、PLAなどの生分解性プラスチック製品の取り扱いをさらに強化していく予定です。他者とは一味違うオリジナルグッズやノベルティを制作したいとお考えの際は、ぜひ一度お問い合わせフォームからご相談ください。
[出典]/日本バイオプラスチック協会/生分解性プラスチック入門/http://www.jbpaweb.net/gp/index.html
[出典]/環境省/プラスチックを取り巻く国内外の状況<第4回資料集>/https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-04/y031204-s1r.pdf
[出典]/日本財団/Plastics Management Indexで日本が2位、ドイツがトップに/https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20211005-63065.html
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