ホテル経営の鍵を握るビジネスモデルとは?収益構造や今後の戦略のポイントも解説
2024/12/09
ホテルに対するニーズが多様化する中で、ただ単に泊まる場所を提供するだけでは十分な利益が見込めない時代になりました。ビジネスとしての利益を最大化するためには、ホテルビジネスの仕組みを知り、ターゲットや需要に応じたサービスを提供することが大切です。
そこで今回は、ホテル・旅館業におけるビジネスモデルの方向性と収益構造を解説します。これからのホテル経営に欠かせないキーポイントもお伝えしますので、成功戦略を模索している方はぜひ参考にしてください。
1.ホテルビジネスとは
はじめに、ホテルビジネスの基礎知識をおさらいしておきましょう。
ホテルビジネスの特徴
ホテルビジネスとは、宿泊場所とそれに付随するサービスの提供を行う事業です。都市部や観光地などさまざまな場所にホテル施設があり、それぞれ土地柄やコンセプトに合わせた戦略を掲げ、顧客の獲得を目指しています。ホテルビジネスの市場規模は数兆円といわれており、今後の拡大も期待されている業種の一つです。
ホテルの種類
ホテルのビジネスモデルを考えるうえでは、自社がどの形態に属しているのか、主観的・客観的に把握しておくことが大切です。なお、日本では主に以下3種類の業態があります。
ビジネスホテル
ターゲット | 概要 |
---|---|
ビジネス利用客 | ・併設施設は最小限 ・宿泊における機能性と価格を重視 |
シティホテル
ターゲット | 概要 |
---|---|
観光からビジネスまで幅広く | ・都市部にある大型宿泊施設 ・結婚式や講演会などの各種イベントにも対応 ・レストラン、ショップ、レジャーなどの施設を併設 |
リゾートホテル
ターゲット | 概要 |
---|---|
観光・レジャー客 | ・非日常体験の提供を重視 ・規模や併設施設はコンセプトによってさまざま |
上記のほか、近年はビジネスホテルから派生した低価格のエコノミーホテルやシティホテルの新形態であるレジャー・アミューズメント施設との複合ホテルも誕生。またリゾートホテルの一形態として、高級感を重視したラグジュアリーホテルやハイエンドホテルなども生まれました。
ホテル運営で重要な3つの指標
ホテル運営では、必ずチェックすべき以下3つの指標があります。
- ADR:客室平均単価
- OCC:客室稼働率
- RevPAR:1室あたりの収益額
上記は、自社ホテルの現状把握や今後の戦略策定に欠かせない要素です。3つのバランスが取れて初めて、よりよいホテル経営が可能になります。
2.なぜ今ホテルでビジネスモデルを把握する必要があるのか
観光庁の調べによると、2023年の宿泊旅行客数は6億1,747万人(前年比+37.1%)でした。客室の稼働率はビジネスホテル69.2%、シティホテル68.8%、リゾートホテル51.9%です。全体でみても7割に及ばず、超えられたのは東京都の73.4%だけでした。また新型コロナウイルス感染症の影響で需要が落ち込み、閉業を余儀なくされたホテルも少なくありません。
しかしアフターコロナを経て、インバウンド増加も相まってホテルの需要は徐々に回復傾向にあります。宿泊施設の多様化による競争激化や人手不足、物資調達・管理にかかるコスト上昇などの問題はあるものの、ホテルビジネスの未来は明るいといえます。
そのような状況の中でホテル経営を成功させるためには、ビジネスモデルとその仕組みを理解し、自社に適した戦略を立てることが求められています。
3.ホテルの代表的なビジネスモデル
ホテルビジネスには所有・経営・運営の3つのポジションがあり、この組み合わせによって4つのビジネスモデルが成り立ちます。ここでは、各ビジネスモデルの定義とメリット・デメリットをみていきましょう。
所有直営方式
「所有直営方式」とは、所有・運営・経営のすべてを単一のオーナーが一括して行うビジネスモデルです。従来のホテルビジネスの基本形式であり、利益はすべて自社に還元されるため、業績アップが成功の鍵を握ります。
所有直営方式では、ビジネスに複数の会社が関与しません。そのため、経営判断がスムーズで運営の自由度が高く、意思決定がサービスへ的確に反映されます。また社会的な信用性も高い傾向にあり、融資による事業拡大などさまざまな展開が期待できるでしょう。
ただ所有直営方式には、多額の資金と専門的な経営の知識が必要です。失敗したときのリスクも大きいことから、開業は容易ではありません。
賃貸契約方式
「賃貸契約方式」とは、他社の土地や建物を借りるビジネスモデルです。別名「リース方式」とも呼ばれるとおり、施設の賃料を支払ってホテルビジネスを経営・運営します。利益とコストのバランスが難しいものの、不動産所有のコストが不要であり、経営・運営で得た収益はすべてホテル側に入る点がメリットです。
賃貸契約形式では、あくまで不動産を借りているだけなので、経営・運営方針決定は自由に行えます。そのため新規参入しやすく、チェーン展開のホテルもめずらしくありません。
一方で、賃貸契約方式のホテルビジネスで生じた不利益はすべて経営・運営側の責任です。したがって、経済状況の悪化や感染症の蔓延など予測できない事態が発生したときも、全責任がのしかかります。
また、不動産の購入などは不要ですが、ホテルビジネスのスタートにかかる初期投資はすべて経営・運営負担です。不動産のオーナーの意向によってはホテルビジネスの継続が難しくなるケースもあり、定期的かつ綿密な関係調整を要します。
管理運営委託契約方式
「管理運営委託方式」とは、他社が所有するホテル施設のマネジメントのみを委託されるビジネスモデルを指します。「マネジメント・コントラクト(MC)方式」ともいい、次の3つも管理委託契約方式の一種です。
種類 | 概要 |
---|---|
フランチャイズ | 契約料を支払いブランドの使用権や運営のノウハウを得る |
リファラル | 別ホテルが互いに紹介・宣伝し合う |
アフィリエイト | 有名ホテル同士で組織化しパンフレット制作や優先予約制度の導入などを共同で行う |
なお委託方法には、大きく分けて以下の2通りがあります。
- 所有・経営は本社であり、運営のみ委託する
- 所有・経営・運営をそれぞれ別会社に委託する
この場合、委託された会社には業績や成果に応じた報酬が支払われ、不動産を所有・経営するリスクがありません。つまり所有者側は手軽な資産運用が叶い、運営側はローリスクのホテルビジネスが展開できます。
ただし、管理運営委託契約方式はオーナーとのパートナーシップが重要です。関係調整の必要があるほか、業績ダウンの責任を追求される可能性がある点に注意しなければなりません。
4.ホテルビジネスの収益構造
ホテルビジネスでは複数の部門を展開して収益化につなげる構造となっているのが一般的です。続いては、ホテルビジネスの収益構造として代表的な5つの部門を解説します。
宿泊部門
宿泊部門は、宿泊客へ客室を提供し、対価としてサービス料を受け取るシステムです。ホテルビジネスの主力商品であり、宿泊客の獲得が収益アップに直結します。
宿泊部門の収益に深く関わっているのは、価格設定と稼働率です。ただ、価格・稼働率のどちらか一方を重視すると、もう片方が下がりやすくなってしまいます。なお、利益率の理想値は約60〜70%。季節や旅行客の多さ、ニーズ、トレンドの分析を通して適切な価格設定が必要です。
飲食部門
飲食部門は、ホテルに併設しているレストランやカフェ、バー、ルームサービスなどによる収益構造です。ケータリングを導入し、独自の飲食部門を持たないホテルもあります。
飲食部門では、宿泊の有無にかかわらず収益が出せるため、旅行客の動向にかかわらず安定的な利益が上げられます。収益性は売上によって左右されることから、メニューの内容やサービスの質、宣伝・PRが重要です。
ただし、飲食部門を充実させるとそのぶん人件費がかかります。フードロスの問題も考慮すると、利益率は20%程度です。ブランドイメージを向上させ、安定的な収益源とするには、さまざまな形態の飲食部門の展開が求められます。
宴会・イベント部門
宴会・イベント部門は、結婚式やショー、パーティー・酒席などを開催するスペースを貸し出すことによる収益構造です。単価が大きく、1回で数百万の利益になることもあるため、大きな収益源になる可能性があります。
宴会・イベント部門は基本的に予約制であり、食品・人員配置などで無駄なく準備できるので、利益率は比較的高く約50%です。ただ、イベント部門は競争が激しい部門でもあります。他社との差別化と、独自のブランディングによる顧客獲得競争に勝てなければ、思うような収益は見込めません。
企画部門
企画部門では、外部へのホテルサービスの営業やイベントのチケット販売の結果が主な収益です。ターゲットが個人か法人かによって方向性は異なりますが、直接訪問のほか、旅行代理店を介した営業を行います。
また企画部門は、ホテルのブランド戦略にも深く関わる業務です。マスコミへの情報提供やWebサイト・SNSの運営など、魅力的な宣伝・PRを展開することで集客につなげます。
管理部門
管理部門では、ホテルが雇用するスタッフや所有もしくは運営する施設・設備などの各種リソースを取りまとめます。人事や経理などがコア業務で顧客に直接関わるわけではありませんが、上質なホスピタリティの提供のために不可欠の部門です。
なお、賃貸契約方式や管理運営委託契約方式では管理部門が別会社になるため、密接な連携がホテルビジネス成功のキーポイントとなります。
収益化につながるホテルビジネス部門のまとめ
・宿泊部門
・飲食部門
・宴会・イベント部門
・企画部門・管理部門
5.ホテルの利益率をアップさせるこれからのビジネス戦略一例
ホテルビジネスで確実に収益を上げていくためには、ニーズやトレンドに即したサービスの提供が欠かせません。ここからは、今後のホテルビジネスで利益率アップが見込める3つの戦略を紹介します。
需要に応じたマーケティング施策
現代のホテルへの需要は多様化してきています。従来ホテルへのニーズは、ビジネスや旅行での宿泊が大半でした。
しかし近年、イベントの会場や住居としてなど、宿泊以外の利用方法という新しい価値観が生まれています。価値観の変化に対応するためには、ニーズの多様化に応じた柔軟なマーケティング施策が必要です。豊富なイベントプランや併設サービスの充実など、自社のマーケティング戦略の方向性に合わせて宿泊によらない収益源の確保が今後の課題となるでしょう。
なおホテルマーケティングの意義や重要性が知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
ワーキングスペースの提供
近年、リモートなどによる在宅ワークやフリーランスなど、働き方の多様化が進んでいます。仕事と休暇を合わせたワーケーションもトレンドであり、ビジネスとプライベートが両立できる空間が求められるようになりました。
ホテルは、幅広い働き方の条件が満たせる施設です。ゆえにワーキングスペースとしての方向性を打ち出せば、日中の利用者が増え、大きな利益につながるかもしれません。
エコでサステナブルなホテルとしてのブランディング
AIの活用や読書時間の充実に重きを置いたブックホテルなど、現在のホテルビジネスではコンセプトに基づく独自のブランディングが展開されています。
比較的簡単にできるブランド戦略といえば「エコ」と「サステナブル」。各業界でSDGsの推進が課題となっている中で、環境配慮の姿勢を積極的にアピールすることは非常に重要かつ効果的なブランディングになります。
またホテルビジネスは地域に根差した宿泊事業であるため、サービス内容や廃棄物の処理にも十分な配慮が必要です。さらに2022年4月からは「プラスチック資源循環法」によってホテルアメニティの多くが規制の対象となり、サステナブルな提供方法や原料への転換が急務となっています。
ホテルのエコ活動にはさまざまな方法がありますが、最も手軽なのはエコアメニティへの置き換えです。従来のプラスチック製アメニティをサステナブルな素材に置き代えれば、法的ルールにもスマートに対応できるほか、エコなホテルとしてのブランディングにもつながります。エコアメニティは独特でめずらしいナチュラルな風合いが魅力であり、外国人観光客の取り込みにも効果的です。
上記を含む、ホテルができるエコ施策について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
【番外編】より効果の高まるエコアメニティ導入方法をご紹介!
比較的簡単にはじめやすいブランド戦略の一つ、エコアメニティの導入。数多くのホテル様にアメニティを導入してきた「SUSPRO(サスプロ)」が、効果の高まるエコアメニティ導入方法を紹介します!
POINT1:「自ホテルの演出したいイメージ」に合うデザインを選ぶ
アメニティと一言で言っても、その種類は無数にあります。人の入れ替わりが激しく、サラリーマンなどのひとり利用が多い施設にはシックで機能性の良いアメニティを。日常の癒しを届けたり、少し高級志向な施設を目指したりといった狙いがあるなら、柔らかい雰囲気を演出する竹やコットンなどのエコ素材を用いたアメニティがぴったりです。
自分たちのホテルのイメージに合わせて、適切なデザインを選定しましょう。
POINT2:思い切ってアメニティを「一式導入」する
アメニティの仕入れ先を統一するのも、客室雰囲気を上品にする一手段です。そのためには、定番商品からあったら嬉しい商品まで、多様に取り扱っている業者をおすすめします。アメニティだけではなく、客室備品やノベルティも作れる業者を選べば、より統一感が出せるはずです。
POINT3:オリジナルで制作する
アメニティはお客様が直に手で触れるもの。そのため、そのホテルの印象を大きく左右する、インパクトを持つグッズになります。だからこそ、あえて予算をかけて「オリジナル」で制作することで、お客様へのおもてなしや感謝の気持ちが表せるプチプレゼントになるでしょう。
弊社のお取り引きのあるホテル・旅館様の中でも、上記を意識しているところは「お客様からの反応が良くなった」「持ち帰っていただけることが増えた」「リピート客が増えた」などの声を多くいただいています。
なお、天然素材のアメニティの種類や事例はこちらの記事にまとめました。
関連記事>>「導入ホテル続々!天然素材のアメニティはどんな種類がある?事例を交えてご紹介」
また、ホテルアメニティの適切なリニューアル時期や成功のポイントを知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
関連記事>>「ホテルアメニティのリニューアル、効果を最大化するタイミングと選定ポイントとは」
6.自社ホテルに適したビジネスモデルの決定とエコ活動の推進を!
ホテルビジネスにはさまざまな形態があり、それぞれの仕組みやメリット・デメリット、今後の展開を踏まえた収益構造を決める必要があります。現代の一大ニーズ・トレンドである多様性やエコにも配慮して、ほかにはない魅力的なビジネスモデルを構築していきましょう。
ホテルビジネスにエコを取り入れるなら、サステナブルなものづくりでビジネスをサポートする「SUSPRO」へ!多彩なエコアメニティ・客室備品の制作を企画から納品まで一貫してご提案しますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
[出典]/国土交通省 観光庁/宿泊旅行統計調査(2023年・年間値(確定値))/https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001751247.pdf
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